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プロローグ -- 本編 12 ・ 3
          番外編 1
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A.1-9

セラたちの話を微笑ましく聞きながら、持ってきたお酒を開ける。
コルク栓だったので少し困ったが、フォークを駆使して開けることができた。
途端、このお酒の香りだろうか、今まで嗅いだことのない香りが漂ってきた。
分類するなら果実酒の……この前飲んだ、梨のお酒に近いだろうか。
熟れた果実特有の甘い香りと、それに加えてお高い葡萄酒みたいな、
人を惑わすアルコールの香りが合わさって、私の心を掴んだ。
これなら男も落とせる。そんなことも考えてしまうほどのお酒だった。

気がつくと、テーブルについていた3人ともがこっちに視線を向けていた。

「やけに良い香りのお酒ですね。何だか香水みたいです」

「そうだね、この匂いだけで酔っちゃいそう。あれ……ジル?」
セラがジルの方に怪訝な顔を向ける。

私もそちらを向くと、先程の騒動のときみたいに顔が赤く、しっぽがゆらゆらしているジルが見えた。何故そんなことになっているのか本人が一番不思議なようで、うろん気な顔をして頭を傾げては、頭を持って行かれて椅子から転げ落ちそうになっていた。

「まさか、この匂いだけで酔った?」

「まさか。流石にそれはにゃ、な、な、ないと思う、ぞ?」
まさか、真っ赤な顔をしてちょっと色っぽいジルに、
上目使いでそんな台詞を言われる日が来るとは思わなんだ。
や、案外これはコロっと落ちるかもしれん。頑張れ、フェンネル。

「これは完璧に酔ってるね。ガージュって鼻も良いんですっけ?」
苦笑しながらリルグが私に聞く。

「まぁ、一応獣の血が入ってるわけだからね。私たちヒュームよりは鼻が良いと思うよ。
でも、ジルは混血の更に混血、えっと、クォーターか。
クォーターなんだからそれこそ私たちよりちょこっと良いくらいだとは思うんだけどね」

「私たちは何も変化はないしね。
まぁ、開けた途端にそんなに香りが広がるような強いお酒なら飲んだらすぐに酔っ払いそうだけど」

「そだね。お酒が強くない人にはちょっと辛いかも」
そう言って、私は持ってきていた自分用の碧いガラス製のグラスに注ぎ、
くいっとグラスを傾け、お酒を流し込む。
喉が焼けるくらいの強さを想像していたのだが、想像以上に飲みやすい。
後味から考えても、やはりこれは何かの果実のようだが、何の果実かは結局わからない。
それでも、これはこの前飲んだ葡萄酒より美味しい。
あれは結構高かったから、それより高いってことは……。

「ん?」

右腕に微かに重みを感じてすぐに消えた。
そちらを向くと、案の定ジルが頭を持っていかれて私の腕にぶつけていた。
「あぁ、ごめんなさい」とか、素直に謝っているところが微笑ましくて可愛い。

「ジルってお酒弱い方なの?」
酔ってない組の向かい側の二人に聞く。

「たまに一人で飲むことはあるって言ってましたけどね。まだ一緒に飲んだことはないんですよ」

「じゃあじゃあ、今度みんなで飲み会してみようよっ。
リドとかウィーとか、ティーにカツシも呼んでさ。面白そうでしょ?」

そのセラの提案に渋い顔をした人がセラ以外のまだ正常な人2名。原因はわからなくもない。
リルグはカツシとティルテュにはまだ慣れていないハズだ。
彼の性格上、仲良くなるには時間が掛かると見ていい。
何て言っても、昔の私に似てるんだから。

私の方はと言えば、マスタとウィーを呼ばれるとちょっと辛い。
リルグたちが話していた私のお酒に纏わる辛い話も、
元はといえばあの二人の魔女のせいでもあるのだ。
ざるを通り越したざるっていうのはどう表現すれば良いのか。

「それならミルミアとヒルダも呼ばなくっちゃね」
人数が多ければ犠牲になる確率も減るハズだ。

「呼んだらカスティルさん達は来るでしょうか?」

「達っていうと?」

次の言葉を聞いたとき、ジルの耳が動いたのは言うまでもない。

「フェンネルさんと、クロエさんです」

「フェンネルはまだしも、クロエも呼ぶの?」
リルグの口から出たことが尚更以外だった。

「だって、面白そうじゃないですか。
それに、新しいお酒をもって来てくれるかもしれないですよ?あ、私にもそれ一杯下さい」

美味しそうにお酒を飲むリルグを見ながら、色んな意味で大変な宴会になりそうだと感じていた。
でも、メンバーがメンバーだけにかなり面白いことになりそうだとも。

「リルグ、私にも一口〜っ」
「おいセラ、私の分もにょ、の、残しておけよ?」

セラは酔うとどうなるんだろう。
まさか、いつかの大惨事を起こした人みたいにはならないとは思うが、
大丈夫そうと思う人が危ないっていうのが経験則だから何とも言えない。
ジルは、寝るな。間違いない。
一番人畜無害なタイプであり、お酒の席で欲しいタイプとも言える。

そんなことを考えながら、楽しい食事は過ぎていった。
ジルは私が部屋まで運ぶことになったということと、
あのお酒は最初の一口しか飲めなかったことは言うまでもない。→次へ